NFV先行、ハード提供、無線への拡張と新提案が続々、 ノキアのクラウド化のビジョン

「テレコクラウド」の要求に応えるハードウエア環境

それでは、現時点での仮想化・クラウド化の現実解としてのクラウディフィケーションを実現するために、どのようなハードウエア環境が求められるのでしょうか。
これまでに実施したNFVのフィールドトライアルなどでは、インテルのCPUを使った汎用サーバーなどをプラットフォームとして、通信事業者のクラウド環境を実現し成果を上げてきました。

一方で、こうした経験を通じて、ノキアは1つの知見も得ました。柳橋は、「通信事業者のクラウド、すなわちテレコクラウドには、ITのクラウドとは異なる要求条件があることが見えてきました。その代表的な要求条件がシステムとしての応答性で、低遅延に対する著しく高い性能が求められます。このほかにもテレコクラウドならではの要求条件があります。インテルCPUを使った汎用サーバーによる仮想環境でテレコクラウドを構築して得られるメリットは大きいですが、テレコクラウドが要求する性能をさらに引き出すためには新しいアプローチが求められていると判断したのです」と説明します。

それが結実したのが、2015年6月に発表したばかりの「Nokia AirFrame Data Center Solution」です。テレコクラウドの要求条件を満たすため、ノキアがハードウエアを自前で調達したソリューションです。

Nokia AirFrame Data Center Solutionで提供する製品のポートフォリオ

「Nokia AirFrame Data Center Solutionは、テレコクラウド向けのデータセンター構築に必要なポートフォリオを完全に満たしたものです。サーバーからスイッチ、ストレージ、ラックまで、多岐にわたったラインアップを用意しています。これらはノキアがスペックを規定して、ベンダーから調達した製品です。汎用サーバーを安く買うという意味ではなく、テレコクラウドの要求条件に合致した製品をソリューションとして用意しました」(柳橋)。

Nokia AirFrame Data Center Solutionの特徴的な点として、ハードウエアのアクセラレーターを活用することが挙げられます。無線の基地局との間の暗号化など、特に無線のクラウド化に関わる部分は、ソフトウエア処理では性能が不足するケースがあります。テレコクラウドだからこそ求められる性能や機能に対しては、ハードウエアのアクセラレーターを用意することで性能や機能を確保するアプローチです。テレコクラウドに対応する仮想化環境としては、汎用サーバーを高性能化するアプローチもありますが、Nokia AirFrame Data Center Solutionではテレコクラウドの核となる部分には専用ハードウエアを配することで必要に応じた性能を確保できるのです。

無線部分までクラウド化を拡大するアプローチ

通信事業者のネットワークを仮想化・クラウド化するとき、これまでの多くの取り組みは通信事業者のコアネットワークをクラウド化するというものでした。EPC(Evolved Packet Core)に代表されるコアネットワークの機能をNFVで仮想化し、汎用サーバーなどのプラットフォーム上で動かす形態です。しかし、ノキアではクラウド化の考え方を一段と広げて、コアネットワークのクラウド化だけでなく、無線部分までクラウド化する技術を開発しています。

「今後のアプリケーションとして、コネクテッド・カーなどに代表されるような厳密性を求められる通信では、遅延に対する要求が非常に厳しくなります。低遅延を実現するアプローチとしては、1つはコアネットワークを分散する考え方があります」と柳橋は説明します。

「できるだけユーザーの近くでデータを処理して遅延を少なくするため、コアネットワークを分散型のデータセンターの上で稼働させる方法です。日本でも、東西に1カ所ずつといった配置から、より物理的に基地局に近い場所までコアネットワークを広げて配置することで、遅延への対応を進められると考えています」

テレコクラウドの要求に応えるためのデータセンターを分散化したクラウドアーキテクチャ

さらに、クラウドの適用範囲をエンドユーザーの近くまで拡張する考え方を突き詰めていくと、コアネットワークだけでなく無線部分までクラウド化するアイデアにつながります。それがノキアの「Nokia Radio Cloud」です。

「無線基地局の一部であるベースバンド部分まで、クラウド化してIP網で接続する手法を開発し、2015年3月にスペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress 2015に出展しました。無線部分までクラウド化することで、コアネットワークとの間のリソースの共有などが実現でき、必要な場所で適した処理を行える環境を実現できることを示しました」(柳橋)。

テレコクラウドの適用範囲が広がれば、それだけ汎用サーバーでの処理には荷が重くなり、テレコクラウド専用のデータセンターソリューションが必要になるというのがノキアの考えるストーリーです。

柳橋は「東京五輪が開催され、5Gの商用化を目指す2020年ごろまでは、実際にはクラウディフィケーションによる仮想化・クラウド化が主流になるのではないでしょうか。まず4Gでクラウディフィケーションが進み、その後に、無線技術の進歩に対応しながら、ラジオ側が5Gへと進化します。その時点では、『4Gのコア+5Gのラジオ』という形になるでしょう。さらに低遅延などのアプリケーションの要求が高まってきたときに、コアもラジオも新しいアーキテクチャで構成する完全な5Gネットワークに移り変わっていくという姿が考えられます」と、今後のネットワークの姿を展望します。

5Gの商用化の目標とされる2020年まで、残りはわずか5年。要求条件をすべて満たすネットワークを5年後に完成させることは現実的ではありません。柔軟性や拡張性というメリットを生かせる仮想化・クラウド化によるネットワークを、最適な部分から適用していく過渡期の運用に対するビジョンが求められているのです。