ベンダエンジニア座談会2015

ハンドオーバーからホットスポットへ、5Gで変わるネットワーク設計

野地: 2014年、よく耳にしたのが5G というキーワードです。2014年は色々なところで実験が始まったり、様々な動きがありましたが、実用化に向けてどのようなタイムスパンで動くのか、見通しを教えてください。

冨永: 5Gは今やっと始まったという段階だと思っています。今はようやく要件定義が始まった段階で、一般には2020年になんらかの5Gサービスが開始されると言われていますので、そこに向けて情報提供をスタートして、各社が開発を進めていくことになります。

5Gと言いますと、従来のシステムとは全く変わるイメージがありますが、基本は既存のLTE、LTE-Advancedの上に新しい周波数帯を使ったシステムを載せて、トータルで5Gにするということではないかと思います。

野地: “2020年”というキーワードがありましたが、その時期の日本にとって非常に重要なターゲットとして、東京オリンピック開催があります。より一層人が密集するイベントに向けて、どのようなネットワークが必要になるか、ビジョンはありますか。

冨永: そうした高密度なところのトラフィック対策としては、5Gでは、新しい周波数と帯域をたくさん使って、最大10Gbpsのスループットを実現しようとしています。それよりも早くは現実にはできませんが、小さなセルの範囲に人が入ってきた時に、リニアに上からデータをどんとダウンロードする。10GBのデータを数秒で落とすことで早く使ってもらい、次のユーザが来たらまた高速にデータをダウンロードする。個人的にはそのようなイメージを持っています。

そうすると、今までとは違ったネットワーク設計が必要になります。
今までのネットワークはハンドオーバーによって連続性を実現していたのですが、大容量のデータを送受信できるホットスポットを設置して、必要とするデータを送ってあげる。そういうイメージがまず一つあります。

もう1つはM2Mで、人間以外のモノもネットワークにたくさんつながるようになり、接続端末数はどんどん増えていくと想定しています。
M2Mでいえば、スマートメーターのような低消費電力のものとか、自動運転のようなソリューションでは、遅延時間をさらに短縮することが求められます。
高スループットで大容量のデータを送るだけではなく、様々なデバイスがモバイルネットワークとしてつながり、しかも短時間でのレスポンスが要求されるようになる、といった変化もあると思います。

アプリケーションによって求められるネットワーク像が異なってきますが、各分野に合わせたネットワークが実現できるように、5Gの要件定義が進んでいるところです。

冨永 剛

野地: 弊社のソリューションには「Liquid Applications」という、モバイルネットワークのエッジにクラウドコンピューティングを持ってくるというソリューションがありますが、オリンピックのようなイベントでも効果がありそうですね。

柳橋: クラウドコンピューティングという話でいくと、先ほどのNFVの話でも出ましたが、モバイルネットワークのコアがどんどんデータセンタに移動していくというのが1つの方向性としてあります。データセンタに載せるアプリケーションの数は多ければ多いほどオペレータにとってはメリットがありますから、基地局のインテリジェンスの一部をクラウドに引っ張っていくという発想はあるでしょうね。

クラウドに載せるアプリケーションの種類が基本的に多ければ多いほど、オペレータメリットが出るのは確かなので、そういった方面からも基地局の一部のインテリジェンスをクラウドのほうに、データセンタのほうに引っ張っていくというのは、発想としてはあるのかなとは思います。そういう意味で、「Liquid Applications」は親和性が高いのではないでしょうか。

「ミニマムなネットワーク」でMVNOを実現するための
NFVとSIMフリー

 

「ミニマムなネットワーク」でMVNOを実現するためのNFVとSIMフリー

 

野地:あと、2014年の大きなトピックとしては、SIMフリーとMVNOの台頭ですね。
2014年度は各社の決算発表で、新料金プランの影響というお話もありましたが、今後はMVNOの影響というのも出てくるのではないかと思います。オペレータの新料金プランというのは基本「定額で音声通話がついてきます」というプランですが、ユーザによっては「そこまで音声は使わない」とか「データもそこまで使わない」という人がいますから、そういう人が格安スマホやMVNOに流れる動きは今後出てくると思います。

そうなってきますと、オペレータとしてもあまりARPUの高くないユーザをたくさん収容しなくてはいけないということになってきます。そこでどのようなネットワークを構築すべきか、というところをお伺いしたいのですが、柳橋さん、いかがでしょう。

柳橋: コアは比較的分かりやすくて、先ほどのNFVの話の続きになりますが、NFVの1つの特徴が安価にシステムを構築できるということです。ですから、例えばMVNOのように、スモールスタートが必要なケースで、従来のように最初に大きなシステム投資をしなくても、汎用サーバで小さく始められる仕組みが整いつつあります。

野地: ミニマムなネットワークということでちょっと関連すると思うのがSIMロックフリーで、総務省が義務化の方針を出しましたが、SIMフリー端末の特徴としてキャリアメール等、キャリアのネットワークを使うアプリケーションをあまり使わなくなるということがあるかと思います。NFVを使ったミニマムなネットワークとSIMフリーはフィットしてくる可能性があると感じました。SIMフリー自体がMVNOを促進する側面があるかもしれませんね。

柳橋: もう1つ、現在では、各MVNO事業者が設備を持っているケースが多いと思うのですが、提供するオペレータ自身が仮想的なMVNO先を持って、それを切り売りするような、本当にクラウドのサービスみたいなイメージになってくると思うのですけれども、そういった方向につながるような形でNFVを活用するというケースが可能性としてはあると思っています。

というのは、MVNOは安く提供するためにユーザのビット単価を抑えなくてはいけないという使命がありますので、使用できる帯域を普段は制限しておいて追加料金を支払った時だけ高速にしたり、特定のアプリケーションのトラフィックだけ制限するといった制御を行っています。
そのためにはポリシー制御、弊社でいえばOCSとかPCRといったものを使います。仕組み自体は特にMVNOに特化したものではないのですが、よりきめ細かい帯域制御で帯域を有効活用するという発想にはあっていると思います。ただ、これは先ほどの「設備をあまり持たない」という方向性とは逆行しています。

とはいえ、MVNOの商品設計は、もっとリアルタイムな制御、通信量や速度を規制するだけでなく、ユーザが自分自身でサービスを買って帯域を享受できるといったものにどんどんシフトしています。
従来であればそのためにコアネットワークから先の設備はMVNOのオペレータが独自に持つ必要がありましたが、それ自体をMVNOの卸の事業者が持ってクラウド的に提供することで、より柔軟な設計が可能になります。

野地: 先日のKDDI様が発表した、KDDIバリューイネーブラー(KVE)はまさにそれですよね。

柳橋: KVEが目指しているのはまさにその方向性ですよね。MVNO先の事業者参入の敷居が低くなるような、廉価版サービスを提供するための基盤として、実装や市場の成熟度を見据えつつ将来的にNFVを活用していくことは、技術的に可能だと思っています。