ベンダエンジニア座談会2015

同期対応とスモールセルの配置が3.5GHz帯ネットワーク設計の肝

野地: 周波数のお話が出ましたが、近々3.5GHz帯が割り当てされるということで、オペレータ各社とも40MHz幅のTD-LTEを持てる見通しが出てきています。各社の基地局開設指針によれば早いところでは2016年6月頃からのサービス開始となっていますが、少し気が早いのですが、3.5GHz帯が実用化されると、ネットワークがどのように変わるのでしょうか。

冨永 剛

冨永: 3.5GHz帯の物理的な周波数の伝搬特性を考えますと、従来使っていた2.1GHz帯が基本のバンドになるというのは変わらないと思います。
プラチナバンドといわれている800MHz~900MHz帯は、伝搬特性が良いので、セル半径も広げられ、屋内への浸透度も高いです。これに対して、3.5GHz帯は直進性が高くて、セル半径が限られるという制約があります。

あと、TD-LTEの技術であるということもポイントになるでしょう。TD-LTEの何が重要かというと、やはり上りと下りで同じ周波数を使っているということです。そのため、同期をとる必要があります。

先ほど野地さんから説明があったように、各社に40MHzずつ割り当てられる予定なのですが、通常であれば各社割り当てられている周波数の間に「ガードバンド」という隙間が設けられているので、事業者間の同期は不要です。
ところが、今回の割り当ては、ガードバンドを無くして、事業者間で同期をとらなくてはいけません。これが大きな課題の1つで、各社共同で試験を行うことになるでしょう。

野地: 従来FDDをメインにサービスしてこられたオペレータにとっては、同期に対応したネットワーク設計が課題になるということですね。

野地: 従来FDDをメインにサービスしてこられたオペレータにとっては、同期に対応したネットワーク設計が課題になるということですね。

冨永: ここまでは技術的な課題でしたが、ユーザの体感としては、やはりスループットが上がるというのが一番の変化でしょう。これまでオペレータが提供してきた周波数に40MHz幅がさらに加わりますので、ネットワークキャパシティも上がります。特に混雑している、東名阪の都市部エリアでは顕著に感じられると思います。ただ、モビリティという点では、セルレンジが限られていますから、広範囲のネットワークは従来の2.1GHz帯やプラチナバンドがカバーすることになります。まずは局所的に混雑しているところから3.5GHzでカバーしていくことになるかと思います。

とはいっても、総務省が割り当て指針として、2年以内に最大1Gbps以上の高度特定基地局導入、4年以内に人口カバー率50%と明記していますから、少なくともそれは満足する必要があります。割り当ては2014年末になるかと思いますが、そこを起点としたスケジュールで動き始めることになります。

野地: 3.5GHz帯の基地局は、周波数特性を考えると、スモールセルの設計にならざるを得ないと思うのですが、3.5GHzスモールセル設置で課題になりそうなことというのはありますでしょうか。

高橋: ホットスポットを探すのが課題になるかと思っています。先日仙台に行ったのですが、繁華街では昼間は通行人が通過するだけの場所に夜はコンサートを待っているぐらいの人が滞留していたりします。3.5GHzは直進性が高いので、ちょっとビルの裏に行くともうカバーできないので、そういう場所を正確に見つけていくための技術が必要になるかと思っています。

野地: 人の動きまで含めた設計が必要になるわけですね。そういう課題に向けたソリューションはありますか。

高橋: 時間帯によるトラフィックの増減に合わせてセル設計を柔軟に変えるというのは SONの役割ですが、SONを効果的に使うためにはまず、ホットスポットを見つけてそこに基地局を設置する必要があります。

場所の特定のためのソリューションとしては、弊社の3Dジオロケーションというソリューションがあります。これは交通情報を把握するVICSと似たような形で、モバイルを使っているユーザがどこで電波を発信したかというデータをマッピングしていくことで、どこがホットスポットかを特定します。しかも。名前の通り3次元でデータを蓄積しますので、立体的にどこでトラフィックが発生しているかを把握でき、現地に行かなくても、「ここが混んでいるからスモールセルを設置しましょう」という設計ができます。

NFVの商用化ターゲットは2015年から2016年

野地: ここまでは無線環境の話を中心にしてきましたが、コアネットワークの方でも2014年は様々な動きがあったと思います。特に NFV、仮想化は2013年頃から盛り上がりつつあって、2014年はさらに実証実験に成功したリリースがたくさん出て、とても熱い分野になっているという印象です。そのあたりの取り組みや、商用化にむけた見通しについてお聞かせください。

柳橋: おそらく2014年はNFVが本格的に羽ばたこうとしているタイミングだったと思います。各社、実装がいよいよ整いつつあって、いわゆるPoC(Proof of Concept)と呼ばれるトライアルが実際に行われるような段階にも入ってきていて、商用化への見通しはけっこう近いと思います。2015~2016年を商用化のターゲットとして、各社開発している状況かと思います。

野地: 仮想化という言葉自体は2014年色々なところで聞きましたが、実際にそれがユーザやオペレータにとってどのようなメリットがあるのか、今一つ分かりにくいところがあると思うのですが、そのあたりいかがでしょうか。

柳橋: そうですね、NFV自体もかなり広い概念というか枠組みで、2つの側面があります。 1つは既存のモバイルオペレータのコアネットワークの仕組み自体を、いわゆるデータセンタのクラウド基盤にマイグレーションしていくという側面。もう1つは、NFV自体をサービスとして提供されようとしているオペレータも一部いらっしゃって、それはどちらかというと固定系のオペレータが多いです。

ノキアの取り組みは前者の方で、既存の設備のアプリケーション部分だけをハードウェアから切り離して、汎用的なクラウド基盤に載せるという意味です。あくまでもマイグレーションが主眼ですので、ユーザが直接感じられるメリットというのは、正直あまり無いと思いますが、オペレータには多くのメリットがあります。

まず、専用の装置ではなくなるので、単純に機器コストが下がります。運用コストも、従来のような「駆けつけ○時間」という保守ではなく、クラウドサービスのメリットを最大限享受してコスト自体を下げることができます。結果的にはそれがユーザサービスに還元されて、サービス自体の価格が下がるという効果があるのかもしれませんが、短期的にはおそらくオペレータのメリットが大きいので、それが主導で話が進んでいるように思います。

柳橋 達也

野地: その動きが進むと、テレコムベンダから提供するのは機能に係わるアプリケーションだけということになりますよね。私たちはアプリケーションデベロッパやサプライヤのような位置づけに変わっていく、ということでしょうか。

柳橋: そうですね。おそらく、システムの構成自体が変わるというだけではなく、ビジネスモデル、収益構造自体がソフトウェアやアプリケーションに重心を変えていくということになるのだと思います。

これまでテレコム系のベンダとIT系のベンダの間には垣根がありましたが、NFVはそれを一緒にしてしまおうという方向性なので、ビジネスチャンスであり、かつリスクもあります。異業種間のせめぎ合いになるでしょう。ここ数年はかなり激しい戦いがあるのではないかと思っています。

野地: その中でのノキアの競争力になるのは、例えばどのようなところでしょうか。

柳橋: 汎用環境で動くようになったとはいえ、私たちとしてはアプリケーションを長年作ってきたという自負があります。

基盤の方から上位を攻めてくるアプローチは難しいのではないかと思っています。あと、おそらくこの後のヴェリマッティさんの話とも少し関係しますが、ノキアは汎用基盤で動きます、といった時に、その基盤を提供するベンダ、例えば弊社であればHP社がハードウェアを提供するベンダですが、汎用基盤の世界でデファクトになっているベンダとコラボレーションすることで、私たちの強みであるアプリケーションソフトウェアによりフォーカスできます。NFVへの動きの中で、確実に新しいエコシステムが生まれるでしょう。

私たちとしては、パートナーとの関係を強化しながら、自社の強みにより注力して、全体としてお客様であるオペレータが満足できるものを提供していくということです。

野地: 他社との関係で、どのような領域のパートナーと関係を強化していきたいという方向性はありますか?

ヴェリマッティ: いろいろな領域でパートナーとビジネスを拡大するチャンスはあると思っています。例えば無線系であればマイクロ波の伝送装置が挙げられます。この分野ではノキアはドラゴンウェーブ社と提携しておりますが、省令改正に伴い更に容量の高い新製品の導入が可能になる見込みですので、伝送容量を拡張したいというお客様のニーズに応えることができると考えております。また、グローバルにおいてはRANのセキュリティに関わる問題も発生していますので、日本においてもそういった課題をパートナーと一緒に解決してゆければと思います。

一方、コア側を見ますと、最近話題のIoTやNFVに対応するため、ネットワークとしてより柔軟なプラットフォームが求められるようになってきていると感じています。そのような新しい領域に対するソリューションについてもパートナーとともに検討を進めています。